この記事では、
ネット上で最も古く「静かな退職」という訳語を使っていたと思われる
ある論文についての読後メモをまとめる。
■ この論文についての前提
https://otsuma.repo.nii.ac.jp/record/7452/files/N24001.pdf
論文 「静かな退職と働かないおじさん」(2022年発行)
・ネット検索の範囲では、「静かな退職」という日本語表現を使った最古に近い事例。
・アメリカ発のQuiet Quitting を紹介しつつ、
日本の「働かないおじさん」問題と接続しようとしている構成。
■ 論文で良かったと思う点(Good)
成果主義と終身雇用のバランスが崩れたという指摘
成果を出しても評価が上がらない「構造問題」への言及
日本での働き方改革・評価制度の矛盾を指摘している点
ここは僕も強く共感した。
■ 一方で感じた弱点
① “モチベーション”という曖昧な言葉が多用される
読む側としては、
モチベーションを保ち働くことが“正”
目標以上に働くべきだ
出世しないことが問題だ
という価値観が透けて見える。
著者自身は意図していないかもしれないけれど、
説明が足りず誤読の余地がある。
② 日米比較が前提条件を揃えず進められる
アメリカと日本では、
雇用制度も文化も根本的に違う。
アメリカ:ジョブ型
日本:メンバーシップ型
この違いを踏まえず、
Quiet Quitting と働かないおじさんを並列に論じるのはやや無理がある。
③ データや実証に乏しく、雰囲気の議論が多い
SNS上の声や一般論を元に展開されており、
“それっぽく”読めるが根拠は弱い。
働かないおじさん世代の価値観を
実際に調査したわけでもない。
■ 論文の結論:働かないおじさんが静かな退職を生む
論文は最終的に、
> 「働かないおじさんが若手のモチベーションを下げ、
静かな退職を助長している」
と結論づけている。
これは論文全体の流れからは自然な結論だ。
■ しかし、僕は違う見方をしている
僕は、原因は“もっと前”にあると考える。
原因:企業の評価制度の曖昧さが慢性化してきたこと
これこそが日本の働き方の根本問題であり、
働かないおじさん
静かな退職
という2つの現象は この構造の“結果”に過ぎない。
個人を責めても何も変わらない。
組織のルールが更新されていないことこそが問題だ。
【結論】
論文の議論は参考になるが、本質的な原因は評価制度のアップデート不足**
“静かな退職”も“働かないおじさん”も、
実は企業側が長年アップデートできなかった評価制度の副産物だ。
論文はその表層的な現象を追ったに過ぎず、
僕としては「問題の本質には届いていない」と感じた。

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