タワーレコードは、CD市場が縮小した時代に「過去最高益」を更新したと報じられています。安室奈美恵、浜崎あゆみ、宇多田ヒカル、GLAY、B’zなどがミリオンヒットを連発したCD全盛期を知る人ほど、「なぜ今のタワレコがそこまで利益を出せるのか」と感じるはずです。
結論から言えば、タワレコの回復は「CDが昔のように売れるようになった」からではありません。CDを入口にしながら、推し活、店舗体験、オンライン予約、イベント会場物販、グッズ、アナログ盤、中古・廃盤商品までつなげるファンダム・コマースへ事業の重心を移したことが大きいと考えられます。

2024年2月期は過去最高益、ただし売上高ではなく利益の話

ダイヤモンド・オンライン/AERAdot.の記事によると、タワーレコードの2024年2月期の利益は18億8,300万円で、前期比85.5%増。2021年、2022年にはコロナ禍で赤字だったものの、2023年に約10億円の黒字へ回復し、2024年2月期に過去最高益を更新したとされています。
ここで注意したいのは、比較対象が「売上高」ではなく「利益」である点です。1990年代後半から2000年代初頭のCD全盛期は、市場全体の売上規模が現在よりはるかに大きかった時代です。一方、現在のタワレコは市場が縮小したなかで、利益を出しやすい売り方に組み替えています。
オンライン販売を強化した理由

オンライン販売強化の直接のきっかけは、コロナ禍による来店減です。店舗休業や外出自粛によって、従来の「店に来てもらって買ってもらう」モデルは大きな影響を受けました。そのため、店舗に依存しない予約・購入導線として、タワレコオンラインの重要性が高まりました。
ただし、タワレコのオンライン戦略は、単にECでCDを売るだけではありません。公式会社概要では、事業内容として音楽ソフト、映像ソフト、書籍、雑貨、チケットのオンライン販売に加え、マーケットプレイス運営も掲げています。つまり、オンラインは「在庫を置く場所」ではなく、予約、特典、抽選、限定商品、ロングテール商品を全国に届ける販売基盤です。
オンラインで売るものはCDだけではない

タワレコオンラインの中核はCD、Blu-ray/DVD、アナログ盤、書籍・雑誌、グッズです。特に推し活領域では、初回盤、店舗別特典、抽選特典、限定グッズ、イベント連動商品が重要になります。
たとえば、IDOLiSH7の「NO ANIME, NO LIFE.」キャンペーンでは、アルバム発売に合わせて全店ポスター掲出、店内開店コール、オリジナル特典、特別レシート、スタンディパネル展示、オンライン購入者向け抽選特典などが組み合わされています。これは、同じ商品でも「タワレコで買う理由」を多層化する施策です。
また、豆柴の大群都内某所 a.k.a. MONSTERIDOLの「NO MUSIC, NO IDOL?」施策では、対象12店舗とオンラインで、初回生産限定盤の購入者に数量限定のB2ポスターを配布しています。通常盤ではなく高単価な初回生産限定盤に特典を寄せることで、購買単価を上げる設計になっています。
推し活需要に対して変えたこと

タワレコが変えたのは、店舗を「商品を買う場所」から「ファンが参加する場所」へ寄せたことです。同記事の続きでは、アイドル、K-POP、声優、アニメ、ビジュアル系などの特設コーナー、パネル、映像、展示、イベントの重要性が説明されています。
推し活の本質は、音源を聴くことだけではありません。ファンは、推しのパネルを見たい、店舗限定特典を手に入れたい、展示を撮影したい、イベントに参加したい、同じ熱量のファンが集まる場所に行きたい、という動機で動きます。サブスクでは代替できない体験を店舗に作ることで、来店と購買を生んでいます。
会場物販は「熱量が最大化する瞬間」を押さえる施策

タワレコは店舗で待つだけではなく、アーティストのライブ会場にも出向いています。記事によると、アーティスト単位で年間1,400組、実施回数は毎年5,000件ほど会場販売に対応しているとされています。
これは非常に合理的です。ライブ直後やイベント当日は、ファンの購買意欲が最も高いタイミングです。そこでCD、映像作品、グッズ、限定商品を売ることで、「記念買い」「応援買い」を取り込めます。店舗、オンライン、会場物販がそれぞれ別物ではなく、ファンの熱量に合わせた販売接点として機能しているわけです。
中古・廃盤・アナログ盤でロングテールを取り込む

2024年10月、タワレコは「タワーレコード マーケットプレイス」を正式ローンチしました。CD、アナログレコード、Blu-ray/DVDなどを、個人や法人がタワレコオンライン内で売買できる仕組みです。
新品CD市場が縮小しても、音楽ファンには廃盤、限定盤、過去作、中古、アナログ盤への需要が残ります。ここをフリマアプリ任せにせず、音楽特化の二次流通として取り込むことは、タワレコらしい戦略です。
さらに2025年には、静岡店で中古CD専門エリア「USED CD SPECIALTY STORE」を展開し、約15,000枚の在庫、店頭買取、宅配買取キャンペーンを打ち出しています。これは、オンラインだけでなく店舗側でも中古・リユース需要を取りに行く動きです。
スタッフとバイヤーの熱量を捨てなかった

タワレコの差別化で見逃せないのが、スタッフやバイヤーの主観です。取材記事では、かつて全店共通の品ぞろえや共通POPで効率化を試した時期に売上が落ちたと説明されています。その後、手書きPOPや店舗ごとの裁量、スタッフの熱量を重視する方向に戻しています。
象徴的なのが「タワレコメン」です。全国のバイヤーが、まだ広く知られていないアーティストを選び、全店で展開する企画です。2026年1月度のリリースでも、バイヤーのプレゼンと投票で選ぶ仕組みが説明されています。アルゴリズムではなく、「人が推す」ことをブランド資産にしているのです。
実務で参考にできるポイント

- 商品単体ではなく、「そこで買う理由」を設計する。
- 特典は高単価商品、予約、初回盤に寄せる。
- 店舗とオンラインを分断せず、同じキャンペーンでつなぐ。
- ファンが撮影・共有したくなる展示、レシート、ポスターを用意する。
- ライブ会場など、購買意欲が最大化する場所に売り場を出す。
- 新品だけでなく、中古、廃盤、限定盤、アナログ盤のロングテールを取り込む。
- スタッフやバイヤーの主観を、効率化で消すのではなく差別化要素にする。
限界と注意点

タワーレコードは非上場企業のため、売上高、粗利率、商品カテゴリ別の利益貢献、キャンペーン別の売上効果は継続的には公開されていません。そのため、本記事では公開記事、公式会社情報、公式プレスリリースから確認できる事実と、そこからの解釈を分けて整理しています。
グッズや特典付き商品のほうがCD単体より利益率を高めやすいという見方は一般論として妥当ですが、タワレコ個別の粗利率は未開示です。したがって、「グッズが利益増の主因」と断定するのではなく、CDを入口にして周辺商材と体験を組み合わせたことが、利益改善に寄与した可能性が高い、と見るのが適切です。
まとめ

タワレコのマーケティング戦略は、CDショップの延命ではありません。推し活、店舗体験、オンライン予約、会場物販、グッズ、中古・廃盤、アナログ盤を組み合わせ、ファンの購買行動を発生させる仕組みに変わっています。
音楽を聴く行為はサブスクに移っても、推しを応援する行為、限定品を所有する行為、イベントに参加する行為、同じ熱量の人が集まる場所に行く行為は残ります。タワレコはそこを丁寧に拾い直したからこそ、CD全盛期とは違う形で過去最高益を出せたのだと考えられます。

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