Airbnbは、旅行者が撮ったような写真を音楽に合わせて次々と見せるCMを展開しています。派手な映像効果や長いナレーションは使わず、宿泊先で過ごした時間をアルバムのように見せる表現です。
このCMを見て、「写真だけでも旅の楽しさが伝わる」「最後まで見てしまう」と感じた人もいるでしょう。一方で、広告の結果として予約が何件増えたのか、日本での認知度が何ポイント上がったのかといった数値は公開されていません。
したがって、外部からAirbnbの広告効果を断定することはできません。しかし、効果が非公開だから分析する意味がないわけでもありません。表現を分解し、広告研究と照らし合わせれば、自社の広告やSNS投稿、採用広報、商品紹介に転用できる施策のヒントが見えてきます。
Airbnb型の写真広告から学ぶべきなのは「写真を使えば売れる」という話ではありません。商品説明を減らし、利用後の時間を物語として見せ、その記憶をブランドにつなぐ設計です。

まず、広告効果が分からないことを認める
Airbnb全体の売上や予約数が伸びていたとしても、それだけで写真CMが成功したとは言えません。旅行需要、料金、掲載物件数、アプリの改善、検索広告、PRなど、多くの要因が同時に動いているからです。
さらに、企業が社内で行うブランドリフト調査、広告接触者と非接触者の比較、地域別テストなどは、通常すべて公開されるわけではありません。
公開情報から確認できるのは、Airbnbが写真と音楽を中心にした表現を繰り返し採用していることです。継続には一定の社内評価があると推測できますが、それを予約増加率や投資収益率の証明として扱うことはできません。
そこで、分析の問いを「このCMは何%売上を増やしたのか」から、「どのような仕組みで見た人の記憶を作ろうとしているのか」へ変えます。
ヒント1:商品ではなく、利用した後の時間を見せる
宿泊サービスの広告なら、通常は部屋の広さ、設備、立地、料金などを説明したくなります。しかし、Airbnb型の広告で主役になるのは物件情報ではありません。
家族や友人が到着する、料理を作る、食卓を囲む、外で遊ぶ、朝を迎える。視聴者が見ているのは「泊まる場所」よりも、「そこで誰と何をして過ごすか」です。
これは、商品の仕様ではなく利用後の変化を見せる方法です。自社施策へ置き換えると、次のようになります。
- 飲食店なら、料理の接写だけでなく食卓を囲む時間を見せる
- 家具なら、製品単体ではなく家族が使う場面を見せる
- 業務ソフトなら、画面だけでなく作業が終わって余裕が生まれた状態を見せる
- 採用広告なら、制度一覧ではなく入社後の具体的な一日を見せる
機能は比較されやすい一方、使用後の時間は「自分もこうなりたい」という欲求につながります。特に、購入前に体験を試せないサービスで有効な考え方です。
ヒント2:複数の写真を時系列に並べ、小さな物語を作る
一枚の美しい写真は注意を引きます。しかし、複数の写真が「到着→体験→余韻」という順番に並ぶと、広告は単なる作品集ではなくなります。
人は写真と写真の間を補い、出来事の流れを読み取ります。動画を細かく撮影しなくても、静止画の選択と順番によって、旅の始まりから終わりまでを想像させられます。
ここで音楽は、雰囲気を作るだけではありません。別々の場所や時間に撮られた写真へ一定のリズムを与え、一つの記憶としてまとめる編集装置として働きます。
実務では、写真を選んでから順番を考えるのではなく、先に次のような短い構成を決めると再現しやすくなります。
- 冒頭:誰の、どのような状況かを示す
- 展開:商品やサービスを使っている場面を見せる
- 変化:感情や状態がどう変わったかを示す
- 余韻:最も覚えてほしい写真を置く
- 接続:ブランド名と短いメッセージを出す
ヒント3:説明を減らし、一つの印象に絞る
写真中心の広告は、すべてを説明する広告ではありません。Airbnb型の表現から受け取る中心的な印象は、「この場所なら、誰かと特別な時間を過ごせそうだ」というものです。
価格、安全性、予約方法、キャンセル条件まで一つのCMへ入れれば、情報量は増えます。しかし、視聴者が最終的に何を覚えるのかは曖昧になります。
画像優位性効果の研究では、具体的な画像は対応する単語などより記憶されやすい傾向が示されています。また広告の視線研究では、画像が注意を集める重要な要素であることが報告されています。
ただし、これは「画像なら何でも効果がある」という意味ではありません。画像と伝えたい内容が一致し、視聴者が意味を読み取れることが前提です。
認知広告では一つの印象に絞り、料金や条件の説明はWebサイト、検索広告、営業資料など別の接点で補う。この役割分担が重要です。
ヒント4:写真の記憶をブランドの記憶へ接続する
写真広告には大きな落とし穴があります。写真だけが記憶され、広告主を忘れられることです。
美しい海、楽しそうな家族、魅力的な料理を見せても、競合企業でも成立する内容なら、広告費で旅行カテゴリー全体を宣伝しただけになる可能性があります。
そのため、写真とブランドを次のように接続する必要があります。
- 自社ならではの利用場面を選ぶ
- 同じ構図、色、編集テンポ、音楽などを継続する
- 最後のロゴだけに頼らず、物語の途中に固有性を入れる
- 写真で生まれた感情を短いコピーで言語化する
Airbnbの場合、一般的な観光地だけではなく、一軒家や個性的な宿で人々が一緒に過ごす場面が、ホテルとの違いを示します。重要なのは写真の美しさより、「なぜこの体験がこのブランドなのか」が伝わることです。
ヒント5:認知広告と獲得広告を分けて測定する
写真と音楽による感情的な広告を、クリック率や即時購入だけで評価すると、施策を誤って判断する可能性があります。
このタイプの広告が狙うのは、将来旅行を考えたときにAirbnbを思い出してもらうことです。評価指標も目的に合わせて分ける必要があります。
| 目的 | 主な指標 |
|---|---|
| 注意を得る | 視聴完了率、停止率、注視時間 |
| 記憶に残す | 広告認知、ブランド想起、メッセージ想起 |
| 関心を作る | ブランド検索、指名流入、サイト訪問 |
| 獲得する | 問い合わせ、予約、購入、獲得単価 |
小規模な企業でも、地域や配信期間を分けた比較、ブランド名の検索数、広告接触者への簡単なアンケートなどで検証できます。

写真広告を作るための実践テンプレート
Airbnb型の表現をそのまま模倣する必要はありません。次の項目を一枚の企画書にまとめれば、自社向けの写真広告を設計できます。
- 誰の物語か:顧客像を一人または一組に絞る
- 開始時点:利用前にどのような状況だったか
- 体験:商品・サービスをどの場面で使うか
- 変化:利用後に感情や行動がどう変わるか
- 象徴写真:広告を見た後に一枚だけ覚えてほしい写真は何か
- ブランド接続:競合ではなく自社である理由をどこへ入れるか
- 役割分担:広告で説明しない情報をどのページで補うか
- 検証指標:認知、検索、問い合わせのどこを成功とするか
向いている商材と、向いていない使い方
写真と音楽を使った広告は、旅行、住宅、飲食、教育、採用、ウェディングなど、利用後の体験や感情を視覚化しやすい領域と相性があります。
一方、料金条件、契約内容、安全基準、複雑な機能比較を正確に説明する用途には向きません。また、素材写真を並べただけでは、本物らしさや一貫した物語が生まれません。
「画像は文字より強い」という一般論だけで写真を増やすのではなく、写真で伝える部分と、言葉で説明する部分を分ける必要があります。
まとめ:効果数値ではなく、再現可能な構造を見る
Airbnbの写真CMが予約を何%増やしたのかは、公開情報から判断できません。企業全体の成長をCM単体の成果として扱うこともできません。
それでも、広告から得られる施策のヒントはあります。
- 商品そのものより、利用後の時間を見せる
- 写真を時系列に並べて小さな物語を作る
- 説明を減らし、一つの印象に絞る
- 写真の記憶をブランドの記憶へ接続する
- 認知と獲得を分け、目的に合った指標で測る
広告事例を見るときに重要なのは、成功を推測することではありません。観察できる表現を分解し、自社で検証できる仮説へ変えることです。Airbnbの広告は、その考え方を学ぶ材料として優れた事例といえるでしょう。
出典・参考
- Airbnb公式YouTubeチャンネル
- Childers & Houston(1984)画像優位性効果と消費者記憶
- Pieters & Wedel(2004)広告における注意獲得と移転
- Paivio & Csapo(1973)画像の自由再生と二重符号化
- Houtsほか(2006)画像が注意・理解・記憶に与える影響のレビュー
- Airbnb投資家情報
注:Airbnbの写真・音楽を使ったCM単体の予約増加率、ブランドリフト、費用対効果は公開資料で確認できません。本記事は公開広告の表現と広告・記憶研究をもとに、施策設計上の示唆を整理したものです。

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