ファンコミュニケーションズの決算短信を読むと数字の変化が見えますが、決算説明資料を読むと、もっと別のものが見えてきます。そこにあるのは、会社が投資家に向けて「いま自分たちをどう説明したいのか」という主張です。
実際に2021年12月期から2025年12月期までの決算説明資料を並べると、ファンコミュニケーションズの語り口はかなり変わっています。前半3年は、nendの低迷やA8.netの状況、会計基準変更などを説明する「足元説明」が中心でした。ところが2024年12月期からは、「第2創業」「プロシューマー支援企業」「一気通貫のデジタルマーケティング支援」という言葉が前面に出てきます。2025年12月期になると、その変化をさらにAI、BPO、M&A、ROEという具体策で語るようになりました。
まず結論
- 2021年12月期から2023年12月期までの決算説明資料は、苦戦の理由やKPIの説明が中心で、主張の軸は「現状理解」にありました。
- 2024年12月期の資料で流れが変わり、ファンコミュニケーションズは自らを「第2創業期」に入った会社として描き始めます。
- 2025年12月期の資料では、その変化がさらに進み、既存事業の利益最大化、AI/DX投資、M&A、ROE10%以上という資本政策まで含めたストーリーになっています。
- つまりこの5年で、IR資料は「業績の説明書」から「会社がどう進化するかの提案書」へ変わってきたと言えます。
図解で見る、主張の変化



2021年12月期 主張の中心は「厳しい理由の説明」だった
2021年12月期の決算説明資料で目立つのは、会社がまず「なぜ売上が伸び悩んでいるのか」を説明していることです。資料では、nendの業績低迷が続いていること、A8.netでは広告主の入れ替わりが進んでいるものの、それが売上高に反映されるまで時間がかかることを挙げています。ここでの主張は、未来の大きな構想というより、「足元が厳しいのには理由がある」という理解を投資家に求めるものです。
つまり2021年のFANCOMIは、まだ既存事業の立て直しの途中にいる会社として自分を語っていました。IR資料の主役も、会社のビジョンより、売上や経常利益、A8.netやnendのKPIでした。
2022年12月期 主張は「見た目の売上ではなく中身を見てほしい」に寄る
2022年12月期の資料では、収益認識基準の変更が入ったことで、数字の見え方そのものが変わりました。そのため資料のトーンも、前年まで以上に「見た目の売上だけで判断しないでほしい」というものになります。説明資料は引き続きA8.netやnendのKPIを前面に出し、会計上の見え方ではなく、取扱高や広告主数などの実態指標を示す役割を強めています。
この年の主張は、成長ストーリーを語るというより、「会計ルールの変化で表面的に見える数字と実態は違う」という補足に近いものでした。企業側の主張としては、まだ守りの色が濃いです。
2023年12月期 主張は「不振事業の整理」に進む
2023年12月期の決算説明資料になると、会社は一歩踏み込みます。資料のポイント欄では、減収減益の主な要因はnendの減収であると説明し、さらに赤字が続く子会社を吸収し、リソースの再配置を実施したと示しています。ここではじめて、「苦戦の理由」だけでなく、「その状態にどう手を打つか」が資料の中で明確になります。
この年のFANCOMIは、まだ新しい壮大な構想を前面には出していません。ただし、何もしない会社ではなく、不採算や低成長の部分に手を入れていく会社だという姿勢を見せ始めています。2024年以降の変化は、この整理の延長線上で起きていると見ると理解しやすいです。
2024年12月期 ここで一気に「第2創業」の物語になる
2024年12月期の決算説明資料は、過去数年と比べて明らかにトーンが違います。この資料では、会社が「第2創業ではじめるストーリー」と明記し、自らを「アドネットワークプロバイダーからプロシューマー支援企業へ進化する」と定義しています。ここでいうプロシューマー支援とは、A8.netやアドネットワークのエコシステムを通じて集客とマネタイズを支援し、その成功・失敗データを見える化し、AI活用まで含めて最適化していく、という考え方です。
重要なのは、2024年の資料が、もはや単なる決算の補足資料ではないことです。ここでは「自分たちは何の会社なのか」をもう一度言い直している。IR資料の性格が、数字説明からブランド再定義へと広がっています。
2025年12月期 主張は「変身の宣言」から「実行計画」へ進む
2025年12月期の決算説明資料では、2024年に打ち出した第2創業の話が、さらに具体的になります。資料では、2027年度ROE10%以上を目指すこと、既存事業の利益最大化のための投資、M&Aを軸にした成長投資、安定した株主還元をバランスよく実行していく計画が示されています。また、AI活用やDX投資、A8.netへのAI活用、戦略事業への投資まで明記されています。
さらに2025年の資料では、SMB向けに一気通貫でデジタルマーケティング支援を行うこと、独自データとAI活用BPOでコスト効率を高めること、N-INEやファンマーケティング、A8.net・A8app・LUMOSといったサービス群をどう位置づけるかまで説明しています。ここまで来ると、会社の主張は「変わります」ではなく、「こう変わり、こう稼ぎ、こう資金を使います」という実行計画のレベルです。
この5年でFANCOMIが投資家に伝えたかったこと
5年分の決算説明資料を通して見ると、ファンコミュニケーションズが投資家に伝えたかったことは、年々はっきり変わっています。2021〜2023では、苦戦や停滞には理由があること、そしてそこに対して整理や再配置を進めていること。2024では、会社の自己定義を変えること。そして2025では、その変身を利益成長、AI、M&A、ROEという言葉で具体化することです。
言い換えると、この会社は「数字が悪い理由を説明する会社」から、「自分たちは次にこういう会社になると宣言する会社」へと移ってきました。IR資料を読むうえでは、売上や利益だけでなく、会社が自分をどう呼んでいるか、何を強調し始めたかを見ると、この変化がよくわかります。
ファンコミュニケーションズのIR資料は、今後どこを見るべきか
今後この会社を見るなら、決算説明資料の中で「第2創業」の物語がどこまで数字に変わっていくかを追うのがポイントです。具体的には、既存事業の営業利益最大化が進むのか、AI活用やBPO型支援が実際に厚みを持つのか、M&A投資が成果につながるのか、そしてROE10%以上という目標が現実味を帯びるのか。このあたりが、今後の資料で本当に問われる部分になります。
2024年から2025年にかけてのFANCOMIは、言葉としてはかなり前に出てきています。だからこそ次に見るべきなのは、主張の強さではなく、その主張がどこまで実績に変わるかです。

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